オランダ留学記とその後

2017年9月まで、オランダのグローニンゲン大学(RUG)へ留学していました。

【メモ】欧州政治について

2016年8月末からオランダに留学しています。

今回は、混乱の深まっている欧州政治、あるいは「ポピュリズム」について扱った新聞記事を、軽くメモ程度に紹介したいと思います。

専門外ではありますが、留学しているということもあり、やはり関心はあります。

EUの機能不全

EUの機能不全、問題は何か 遠藤乾・北大教授に聞く:朝日新聞デジタル

北海道大学教授の遠藤乾さんへのロングインタビューです。

EUの現在の危機は「複合的」であり、連動しているものだとしています。

具体的には「難民、テロ、ポピュリズムの関係」を挙げ、「難民が流入し、中にテロリストが交じり、それを糾弾する勢力(引用者注:ポピュリズム)が伸長するわけです。」と解説されています。

難民危機自体はEUがつくったものではありません。ですが、完全にEU側の準備不足で、EU内外の境界での警備ができておらず、(欧州の移動の自由を保障する)シェンゲン協定が機能不全に陥った。具体的には難民危機に乗じて紛れたテロリストを捕捉できておらず、各国間の連携も十分に機能していない。こうした機能不全が「もっと国境を管理しろ」という声と、排外主義的なポピュリズムの台頭につながっています。

というわけです。

 

「自分たちの国の事は、自分たちで決める」ことはできるのか?

このインタビューの中で最も興味深かったのは、果たして「主権を取り戻す」と叫んだところで、それは可能なのか、という問いです。

遠藤氏は、「主権」という概念は潜在的にしか存在せず、例外的な状況や国民投票の結果としてしか現れないといいます。

来はかなり法的な概念で、実際にみずから制御できる能力を意味する社会学的な「自律」という概念とは違う。混同してはいけません。

つまり、「主権を取り戻す」ことは「自律的に振舞うことができるようになる」というわけではない、ということです。いや、そもそも「主権を取り戻す」というのは空虚なシュプレヒコールに過ぎないのではないか。果たしてそんなことは可能なのか、いやおそらく不可能だ。

よく混同されると思いますが、この点はとても重要だなと思いました。そもそも、自律的に振舞ってみたところで、何がおきるかというと、「英国の国民投票後の混乱を見ればわかるでしょう」というのが遠藤氏の言っていることだと思います。分かりやすいですね。

それと同時に、経済的な相互依存がかつてないほど広がる中、「ナショナルアイデンティティーに回帰しても解決にならない」とも言われています。これはまさにそうで、なんとか野放図なグローバル化を少しでも抑制したり、各国になるべく広く平等で公正なルールを作ろうとしてきたのがEUでした。内向きになったところで変わらないわけです。

これは例えば、TPP(環太平洋経済連携協定)を考えてみてもいいです。「国家」というレベルを超えて、なるべく広い地域で公正なルールを作ろうとした、とも捉えられるのではないでしょうか。

グローバル化は止められないしレベルで進行しているので、内向きにならず、なるべく広い領域で各国が手を取り合って制御しなければいけない」というのが大体の本記事の結論かと思いますが、現実には「内向き」で「主権を取り戻そう」と煽る「ポピュリズム」が蔓延してしまった、ということかなと思います。

 

ポピュリズム

ブレグジット(英国のEU離脱)とトランプ大統領の当選以後、「ポピュリズム」という言葉が、現在ではすっかりバズワードになってしまい、何にでも使われてしまいよくわからないですよね。「ポピュリズム」と言っておけば何か現在の政治状況を評した気になってしまう、というのもあると思います。

ただ、僕自身は「ポピュリズム」という言葉自体にすこし違和感があって、レッテルを貼ること自体にあまり意味はないと思っています。

Listening:<論点>ポピュリズムと排外主義 - 毎日新聞

そんな中で、岩間陽子・政策研究大学院大教授のインタビューが興味深かったです。

ブレグジットやトランプ氏当選などの政治現象は、国民の一定数の不満をエリート層が認識できなかったことへの抗議だったといえる。ポピュリズムという言葉にはネガティブなニュアンスがつきまとうが、民主主義である以上、人々が大きな不満を抱けばそれを表明するのは当然であり、ポピュリズムというレッテルを貼るだけでは問題の本質を見誤る。

本当にその通りだと思います。

このインタビューが特に興味深かったのは、「ポピュリスト側はたいてい後ろ向きのアジェンダしか設定できておらず、移民を締め出して自由貿易をやめれば国内に製造業と雇用が戻ってくるかのような幻想を与えているにすぎない」と言いつつも、

「既存の政治エリート」への不信感は根強いことを強調し、「単に排外主義に反対するということではなく、危機の根源を見つめ、どんな解決策があるのか真剣に考えねばならない」と言っているところです。

そして、

欧州では社会変化への不安やテロへの恐怖心が強く、排外主義が政党政治の中の確固たるファクターになってしまった。こうした状況では、政治的な対策としては、移民が入るスピードをいったん緩め、社会が落ち着くのを待つしかない。

と結論付けているところ。とてもバランスのとれたインタビューで、興味深く読みました。

 

一応、ポピュリズムの定義自体については、

ポピュリズムは既成権力の支配を人民が打破しようとする急進的な改革の動きを指す。下が上を突き上げる運動で、欧州で目立つ右派の主張だけでなく、米大統領選での民主党サンダース氏のような左派的な動きも含む。社会の物言わぬ多数派に発言の機会を与える面もあり、それ自体は民主主義のあるべき姿だ。半面、予測不能で独裁を生みかねない危うさがつきまとう。

ニュースサイトで読む: http://mainichi.jp/articles/20170122/ddm/041/030/120000c#csidx61ccc4a30448b9685cf3653985db434
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この理解でよいかと思います。

 

 

今年、オランダでは総選挙があります。ドイツでも総選挙があり、フランスでは大統領選があります。

そんななか、オランダの総選挙に関するニュースで信じがたいものがありました。

 

オランダ首相の意見広告

「いやなら出ていけ」 オランダ首相が意見広告 反移民ムード背景か - BBCニュース

オランダのマルク・ルッテ首相が、国の価値観を否定するなら「出ていけ」と主張する意見広告が23日付で、同国の新聞各紙に掲載された。広告は、台頭する反移民政党に対抗するためだとみられている。

オランダでは、ルト・ウィルダース氏が率いる極右政党・自由党(PVV)が勢力を伸ばしていますが、それに対抗するため、だということです。もっというと、支持を取り込もうとしたため、自らも「移民排斥」のメッセージを伝えたということでしょう。

バス運転手の職に応募した移民男性が女性と握手を拒んだために就職できなかったという事例を取り上げた。この大手バス会社は国内の人権機関に批判されたが、首相はバス会社を擁護した。

「実に奇妙な批判だ」と首相は述べ、「会社がもちろん正しい。『私の宗教信条にそぐわないので女性と握手できない』と運転手が言うなど、認められないはずだ」と述べた。

「私を含めて大勢が反発しているのは、まさにこのようなことだ。なぜならここでは、お互い握手をするというのが社会の規範だからだ」

ルッテ首相はさらに、公共交通機関や街中で反社会的な行動がみられると批判。なかでも特に、オランダの価値観を受け入れず、短いスカートをはいた女性や同性愛の男性にいやがらせをしたり、普通の人を人種差別主義者だとレッテルを貼ることを取り上げて非難した。

オランダは大麻がいち早く解禁され、同性婚を認める法律を世界で初めて導入し、売春も合法化され、安楽死も認められている国です。非常にリベラルな国、といって間違いないでしょう。

そのオランダで、総選挙が近づくにつれ、かなり極端に排外主義的な主張をする「オランダのトランプ」と呼ばれるヴィルダース氏率いる自由党が勢力を伸ばしているわけですが、

とうとう、その流れに引っ張られてしまい、オランダの首相がこのような発言をするに至った、ということです。

BBCのニュースでも批判的に取り上げられていましたし、今後どのような展開になっていくかわかりませんが、

オランダでも「ポピュリズム」や「移民排斥」の機運が出てきているニュースだと捉えていいと思います。

オランダ特有の事情

[Part2]格差縮めてもダメ?/オランダ -- 行き詰まる政策 -- 朝日新聞GLOBE

オランダでは2002年の総選挙の際、著名コラムニストが作った新党がイスラム移民問題を取り上げて躍進し、そのコラムニスト本人が選挙直前に暗殺されるという事件がありました。

それを機に、オランダでは移民が入国する前にオランダ語の試験を課されるなど、規制が強まりました。極右のウィルダースが現在台頭している背景にはこのような歴史があったようです。

それに加え、以下のような事情も関係しているようです。

 オランダ政府は1990年代以降、グローバル化に対応するためとして、福祉国家の改革に乗り出した。失業給付などの条件を厳しくし、受給者には求職活動や職業訓練を求めた。世論が移民に厳しくなった背景の一つに、「オランダ人が汗水たらして作り上げてきた福祉国家が揺らいでいるのに、移民にただ乗りされてはかなわないという感情があるのではないか」アムステルダム大学の政治学者、トム・ファン・デル・メールは言う。やっかいなのは、安全網を充実させ、格差を縮めるような政策が、ここでは解決策になりにくいことだ。

オランダは高度に福祉国家化が進展した国として知られていますが、

それを移民にフリーライド(ただ乗り)されて、さらに揺らいでしまうのはたまらない、という感情があるのだという解説です。

これがどこまで実際にそうなのかは分かりませんが、とりあえず極右政党の台頭の背景について納得できる説明ではありました。

 

以上、引用多めの記事でした。とりあえずは、自分の頭の整理になりました。

たまには、このように報道をまとめるような形の記事も書いていきたいと思います。